診察室内の待合席で順番を待っていると医師とおばあちゃん(八〇代後半?)のやりとりが聞こえてきました。
「もう喉のほうは大丈夫です」
「癌じゃないと?」
「癌じゃありません」
「薬はないと?」
「薬もありません」
「カーっぺっ(痰切り)していいと?」
「いいですけど、あんまり激しくしちゃだめですよ」
「あと、できるだけ話すようにしましょう。じゃないと声帯が弱りますから」
「話す人はおらん」
「じゃテレビと話す…あぁ…音読とかしましょうか」
私が診察を終えて出るとそこには先ほどのおばあちゃん。その横にはご主人と思しきおじいちゃん。
話す人はおらん……
四〇年後、妻にそんなことを言われないよう努めねば、としみじみ思ったのでした。